夕方に耽る
「世の中はETCですよ」
高速道路は現金支払いからETC支払いのみに変わろうとしていた。今はその渦中にあり、どちらの支払い方法も利用可能ではあるが、私の素人目にはETC利用者の方が多いように見えている。料金所の有人レーンが閑散としていた。従業員のおじさんがあくびをするほどに。
私の車は新しい車ではない。推奨されている通り、早めにその準備をしなくてはいけなかった。新車はどうかなどと言ってくれるな。あの車は私の青春なのだ。
「実は私、こんな状況に侘び寂びを感じていまして」
本を読んでいる隣人は、わびさびという言葉に明らかな反応を示す。分厚いその本に栞を挟んだ。
「想像、の話ですよ」
隣人は私の話に耳を傾けた。
「今では機械とカメラになってしまいましたが、あの料金所は全レーンに人間が立っていたんです。今は一人のようですね……」
隣人はなにも言わない。ただ聞いてくれていた。
「有人レーンは無くなるそうです。そう遠くない未来に、それは確実にやってきます。現金支払いからETC支払いに変わろうとしている今、この有人料金所はまさに斜陽と言えるのではないでしょうか。これから盛り返すこともなく、ただ衰退をしていく。最期を迎える日も近いですね」
ちらりと隣人の方を見てみれば、夕日が眩しく輝いている。私はすぐに視線を戻した。
「私のような古い車ばかりが有人レーンに行きますよ。料金所のおじさんも、懐かしいと思っているかもしれませんね。私なんかより、その車たちが新車だった現役時代を生きてきたわけですから」
くそ、視線を戻しても眩しいな。私は思わず目を細めるが、この眩しさはどうにもならない。
隣人もこの夕日がたまらないらしい。
「つまりですね……。今の高速道路の料金所には、花の散り際を感じるんですよ。それはもう、美しいと言ってもいいくらいに……」
私の語尾が消えていくと、隣人は少し間を置いて「なるほど」と、返してきた。
おわり。
(TikTokをはじめました)