それほどでもない話があるところ。

ほんの些細なノスタルジー。文章。暇をご用意ください。

紅葉で別れた

「なに読んでるんですか?」

 私は、隣人に話しかけた。正直、紀伊国屋書店のブックカバーで隠された本のタイトルには、興味がない。どちらかというと、この特急列車の車内によくもまあ、分厚い本を持ち込もうなどと思うものだなという関心の方が高かった。

 私は、本を読まない。持ち運ぶのが億劫だからである。電子書籍なるものが流行っているということは知っているが、なんともしっくりこないのだ。多分、その方法も私のなかでは「持ち運ぶ」という扱いなのだろう。

 隣人が本のタイトルを教えてくれた。しかしやはり、どうしたものか。まったく知らない本である。私は「どんな話なんですか?」なんて言って、話を続けた。聞けば、恋愛小説らしい。燃え上がるような恋愛をしていた恋人たちが、別れるのだという。そこに行きつくまでの過程が話の軸らしく、もうすでに半分は読んでいるようであった。

 私も物語は好きだ。歌詞がついている音楽のストーリーを、よく考察している。曲の主人公に感情移入だってするさ。最近だとそうだな、竹内まりやのSeptemberが良かった。偶然にも、こちらも別れの話。

どんなに暑い暑いと言っていても、三月もすれば秋がくる。

 そんなような歌であると、私は解釈している。その言葉をどこで聞いたのかは思い出せないが、でもまあ、きっと今の季節のことだったのだろう。他愛ない世間話の最中に、どこかの誰かが、何かを引用したのだ。

 車窓からはそのときの光景よりも、壮大な紅葉が見える。その情景に、他の乗客も隣人も、そして私も、秋を感じていた。

 

おわり。

(紅茶を飲んでいます)